剣を抜かぬ戦いに

カーツとジェノが礼拝堂へ向かうのを見送る暇もなく、
私はルーシィと向き合う。

彼女はすでに『彼女』ではない。
しかし、決して傷つけてはならない。

すきを見つけ、組み合う。そのまま地面へ押さえ込んだ。
暴れるルーシィの翼から、羽が飛び散った。

ガラフからロープを受け取るが、抵抗は激しく縛るところまで手が回らない。
少しでも気を抜けば、彼女の攻撃が降りかかってくる。
ルーシィの短刀は恐ろしく切れ味がいい、
受ける傷は僅かでも、蓄積すれば馬鹿にできない。

ガラフの癒しがなければ、到底抑えきれていまい。

腕が痺れる。体中が軋む。
身の安全を考えぬルーシィとは違い、こっちは正気だ。
疲れも痛みも感じている。

彼女の『願い』とおり、今、この場で『楽』にしてやればいいのだろうが。
あいにく、その考え方は無かった。
少なくとも、彼女が求めた『楽になりたい』は、
研究者に支配されたままだとか、
精霊の一方的な支配を許したままだとか、ではないはずだ。

だから、私はその手を緩めることはしない。
自分が楽になりたいからとその手を緩めた瞬間、
私は私を、一生許したりしないだろう。


しかし時間は無常にも過ぎ――

上空から無数の殺気が近づいた。
くそっ、来てしまったか。

>「ええい、仕方あるまい!ワシは増援の迎撃に移る!
> マルドル、ルーシィは引き続き頼んだぞ!
> 《癒し》はちゃんと掛けるから安心せい!
> ただ、他の守護者は死なせない程度にやらせて貰う、
> 到底傷をつけずに何とかやり過ごす余裕はないでの!」

ガラフの叫びに

「頼む!」

それだけ応えた。

そして聞こえる、複数の羽音、弓鳴り。
うめき声、それを上回る叫び声。
視界の端で、フェザーフォルク達相手に奮戦するガラフが写る。
空をみやれば――

「――くっ!」

空を覆い、舞い降りるフェザーフォルク達の姿。
『楽園』の破壊者を殲滅するため、彼らは
自分を救いに来た人間達を、こうして殺してきたのだろう。
自分達の意思とは別のものに支配されて。

フューリーに支配された彼らの刃は、ルーシィにもお構いなしだ。
彼女を抑え付けるのに手一杯な自分は、もちろん武器を手になどできない。
迂闊に振るえば、彼女をも傷つけてしまいかねない。

必死に避けるが、傷は着実に増えていく。
間を覆うヒューリーの声に、頭が割れそうだ。
ガラフの癒しが尽きるのも時間の問題。

礼拝堂は、まだ動きがないのか。

カストゥール人の鉄壁な魔力に立ち向かうのだ。
それがどれだけ困難なことか、想像するに余りある。

しかし――
カーツ、ジェノ――がんばってくれ!
あんたらだけが、頼りなんだ――

と。不気味な詠唱が響いた。
一人や二人では無い、その場にいるフェザーフォルク全員のもの。
うねるように響くその声は

「――まさか――」

あの数で光精を撃たれたら――


>「いかん、これ以上は持ち堪えられん!」

ガラフの叫びに、全てを覚悟した、その時。


不意に、全てが止まった。
殺意も、叫びも、ヒューリーの声も。
誰も彼もが動きを止め、その場にくずおれた。

>「これは.........、やったのか?」
「ああ...そうみたいだ、な...」

私はそっと、ルーシィを押さえ込んでいた腕をほどく。
立ち上がろうとして、しかし力が入らず座り込んだ。
ぜえぜえと荒い息を整えようと顔を上げると、
丘を越えた巨人達も轟音を立て、次々と倒れる光景が見える。

>「本当に、危ない、所じゃったな..」

同じく座り込んだガラフに、

「ああ、まさしく九死に一生だ...」

でも、無事に越えられたと、応える。

「しかし、こんなにも長い戦いを、また経験するとはな...
 マヌルに話したら、あいつなんて顔するだろうか」
先のガーゴイル戦で共に戦った戦友を思い出し、くくっと笑った。